4.5. .予測子と修正子 . .
微分演算子は微分方程式の解を得、その演算は(4.35)で表される。その演算は初期値を除いて(4.31)を用いて実行されねばならない。被積分ベクトル Y0' が y0' から yp−1' 迄の p 個の値で構成されているなら、(4.28)に示すように、解 ΔY0 は y0 から yp 迄の p+1 個の値により構成される。従って、最後の点 tp における yp' の値は結果に影響を与えない。その結果、被積分関数が p−1 次関数なら結果は剰余項のない p 次関数になる。しかし、被積分関数が任意の連続関数なら、yp' の影響のある解の方が被積分関数が高次関数であるから yp' を使用しない解よりよい精度を持つであろう。 . .
著者は Δ を掛けた積分演算子、即ち、(4.28)の hD−1 を予測子と名付ける。その理由は、被積分関数の t0 から tp−1 迄を用いて t0 から tp 迄の積分を求めるからである。従来の予測子は yp を y0', y1', ………, yp−1' で表せば逐次の p の値に対して以下に示すように得られる。 . .
行列 D−1 が1次、即ち、p=1 のときは、行列演算式は Δy0=h[1]y0' に同じであるから Euler 法である。行列 D−1 が2次、即ち、p=2 のときは次に示すように中点法である。
行列 D−1 が3次のときは次のようになる。
行列 D−1 が4次のときは次に示す Milne の予測子になる。
. .
予測子 hD−1 により積分されたベクトル Y0 の最後の要素 Δpy0 を持たないサブベクトルを考えると、それは積分範囲に等しい区間の被積分関数を用いた t0 から tp−1 迄の積分を表す。故に、著者は行列 D−1 の最後の行の全要素の値を零にしたとき、この演算子 hD−1 を修正子と名付ける。従って、p 次の予測子に対する修正子は p+1 次行列のサブ行列であり、(p×(p+1))次の矩形行列で表される。従来の修正子は yp を y0', y1', ………, yp−1' 及び yp' で表すことにより、逐次の p の値に対して以下のように得られる。 . .
行列 D−1 が(1×2)次のとき Euler 法の修正子であり、次に示すように台形法である。
行列 D−1 が(2×3)次のとき中点法の修正子であり、次に示すように Simpson の 1/3 則である。
Runge-Kutta 法は第2章 1.4 節に示したように Euler 法と中点法の二つの予測子とこの修正子からなる。 . .
行列 D−1 が(3×4)次のとき Simpson の 3/8 則である。即ち、
行列 D−1 が(4×5)次のとき Newton-cotes の5点法である。即ち、
. .
これが Milne の予測子に対する修正子であるべきである。従来の予測子の修正子として Simpson の 1/3 を用いるべきというのは奇妙な考えである。われわれが顕微鏡視的な現象をより精密に観測するとき、拡大率を上げなければならない。同様に、より正確な結果を得るためには予測子より高次の修正子を用いなければならない。 . .
微分方程式 y' =−ty の Milne 法による解を反復修正毎にプリントアウトすると、それらは t=0 の近傍では1回ないし2回の反復修正で正確な解に漸近するが、t=5 の近傍では修正子を何回も反復しても正確な解に漸近しないことが分かる。その原因は t=0 の近傍では Simpson の 1/3 を修正子として使用することは十分であるが、 t=5 の近傍では十分でないことである。第2章1節及び2節で述べたように、中点法を用いることで十分であるから Milne の予測子を用いることは効果がない。 . .
(4.31)において、演算子は p 次の正方行列であるからベクトル ΔY0 及び Y0' は同数個の要素を持つ。修正子は t0 から tp 迄の積分を被積分関数の t0 から tp 迄を用いて求めなければならないから、最後の要素 Δpy0' をベクトル Y0' に追加しなければならない。その場合、演算子は p+1 次の行列になり、ベクトル ΔY0 は最後の要素 Δp+1y0 を持つ。それは ΔY0 に ΔT を左より掛けることにより取り除かれ、ベクトル ΔTΔY0 は初期値零を第1要素として持つ。(4.33)に示したように、この演算は y' (t) の t から t+h 迄の積分を y' (t) の t0 から t+h 迄の積分から減算することを意味し、その行列演算式は(4.34)で表される。初期値 y0 を(4.33)の両辺に加えると解 y(t) が得られる。それは(4.35)で表され、また、次の式でも表される。
_______(4.39). .
この演算式は(4.38)で表された要素を an で表すと詳細な行列演算子式で次のように表される。
両辺に Δ を左より掛けると、
____(4.40). .
この行列と h の積が p 次の予測子に対する修正子である。この行列は最後の対角要素が零であることを除き、 p+1 次の行列 D に同じである。最後の行の全要素が零であるから、この行列は最後の行の表記を省略して(p×(p+1))次の矩形行列で表してよい。(4.40)は(4.39)に演算子 Δ を左より掛けたものと等価である。故に、
________(4.41)
従って、厳密に言えば ΔY0 を与える修正子は ΔΔThD−1 と表すべきであるが、積 ΔΔT は最後の対角要素が零である以外単位行列と同じであり、省略しても混乱は生じないから通常は省略してよい。 . .
(4.35)の積分演算子 h(ΔD)−1 は、(4.39)を詳細に表した演算式に示したように、t0 から tp 迄の積分を被積分関数の t0 から tp 迄を用いて求めるから厳密に言えば修正子である。しかし、最後の要素 Δpy0' が未知のときそれを零であると仮定すれば、その演算子は t0 から tp 迄の積分を被積分関数の t0 から tp−1 迄を用いて求め、この仮定は予測を意味する。故に、著者は通常予測子と修正子の区別なしに(4.31)及び(4.35)の両方を使用する。 . .
与えられた関数の積分を得たいとき、通常は p 次の予測子より精度のよい結果を与える(p×(p+1))次の修正子を用いるのがよい。与えられた微分方程式の解を得たいときは、以下に示すように予測子と修正子の対を用いることができる。 . .
本解法においては必要とされる出発値は初期値一つだけであり、先ず最初に与えられた初期値 y0 により y0' を求める。それから逐次に、1次の予測子、(1×2)次の修正子、2次の予測子、(2×3)次の修正子、………、p 次の予測子、(p×(p+1))次の修正子と用いて必要な精度の p 個の解を求める。最後の修正子以外の修正子は全て省略することができる。何故なら、k 次の予測子は((k−1)×k)次の修正子を含んでいるからである。 . .
最後の修正子は次数 p を固定したまま何回も反復繰り返し使用してはならない。その理由は、2ないし3回の繰り返しを除き、より良い精度の結果を得るうえで効果がなく、従来の予測子・修正子法のように不安定現象となる原因であるからである。
4.6 2重積分演算子 . .
導関数 y' (t) は y(t)−y0 の微分によって得られ、2次導関数 y"(t) は y' (t)−y0' の微分によって得られる。故に、
____(4.42)
両辺を t0 から t 迄積分すると、
___(4.43)
これが(4.42)の逆演算であり一意である。初期値 y0 及び y0' が与えられるなら、関数 y(t) は2階の微分方程式の解であり、次のように表される。
_____(4.44)
この2重積分演算子を導くために、先ず最初に y(t) 及び y"(t) の逐次階差を用いて(4.43)を行列演算式で表す。
. .
[定理 4.9]. .(4.43)から y0 及び y0' を消去すると、
_____(4.45)
[証明]. .積分変数を x 及び z で表すと、
(4.43)から y0 を消去すると、
次に y0' を消去すると、
[補足]
. .
[定理 4.10]. .m≥0 のとき、Δmy"(t) の t から t+h 迄の2重積分は、
_____(4.46)
[証明]. .定理 4.9 により m=0 のとき成立する。m=k のとき成立すると仮定すれば m=k+1 のときも次のように成立する。
補足
. .
[定理 4.11]. .
y(t)∈Cp+1[a, b] 及び 1≤m≤p+1 と仮定すると次のような ξ が存在する。
______(4.47)
[証明]. .
Δmy(t) は y(t+kh) の減算で構成されるからΔmy(t)∈Cp+1[a, b] が成立する。平均値の定理により、
1). . | m=1 のとき、. . |
2) | m=2 のとき、. . 但し、. .
|
3) | m=n のとき成立すると仮定すると m=n+1 のときは、
. .[Q.E.D.] |
. .
[定理 4.12]. .
y(t)∈Cp+1[a, b] と仮定すると、Δmy(t) は t=t0+rh∈[a, b] を満たす実数 r に対して(4.48)で表される。
___(4.48)
[証明]
1) | . .m=0 のとき、(4.48)は定理 3.1 に示した y(t) の Newton の補間公式である。 |
2) | . . m=1 のとき、定理 3.3 に示したようにその補間公式の階差である。Δy(t)∈Cp+1[a, b] であるが、剰余項が零になる等間隔区分点の数は r=0 から p−1 迄の p 点に減少する。 |
3) | . .m=n のとき成立すると仮定すれば、定理 4.11 により次のような値 ξ が存在する。
これは関数 Δny(t) についての Newton の p−n 次の補間公式の剰余項であり、r=0 から p−n 迄の p−n+1 点で零になる。故に、その補間公式及びそれをシフトした公式は次のように表せる。
これらは定理 3.3 の証明の y(t) 及び p にそれぞれ Δny(t) 及び p−n を代入した公式と同じものである。 . .
関数 Δny(t0+uh) と定数 Rq を持つ近似関数との残差として関数 F(u) を考えると、関数 G(u) 即ち F(u+1) は関数 Δny{t0+(u+1)h} と Rh の代わりに定数 Rq を持つ近似公式との残差である。G(u)−F(u) は u=0 から p−n−1 及び r の p−n+1 点で零になることを用いると定理 3.3 の証明と同様にして次の結果が得られる。
定理 4.11 により、を満たす ξ r が存在する。. .[Q.E.D.]
|
. .
上記証明の 3) は直接(4.48)の m に n を代入した式を用いて以下のように示してもよい。
但し、剰余 R は、平均値の定理により ξ r<ξ<ξ r+h を満たす ξ が存在するから次のようになる。
. .
2次微分演算の逆演算は(4.43)で表される。それを行列演算式で表すとき左辺の逐次階差を求めなければならない。t=t0 なら左辺は y(t)−y0−y0' (t−t0)=0 になるが、これは2重積分の結果ではない。t=t0+h なら左辺は2重積分の結果であるが、左辺の2つの値の差は Δy0−y0' h で表されるから2重積分に関係のない値を含んでおり、ベクトル Y0 の要素ではない。従って、これらは本演算子法においては逆演算の結果ではない。k≥2 なら左辺の第 k 階差は Δky0 になる。従って、逆演算の結果は Δ2Y0 と表され、逆演算は(4.45)に等価である。
. .[定理 4.13]. .
y"(t)∈Cp−1[a, b] のとき、それを Newton の補間公式で表すと、2重積分の結果の逐次階差は、
___(4.49)
[証明]. .y(t) と y"(t) の関係は(4.46)で表される。それに t=t0 を代入すると、Δm+2y0 が得られる。
積分変数を x=t0+rh 及び z=t0+qh で表すと、
____(4.50)
条件 y"(t)∈Cp−1[a, b] が存在するから、定理 4.12 の y 及び p の表記をそれぞれ y" 及び p−2 に変えると、被積分関数 Δmy"(t0+rh) は次のようになる。
剰余項は導関数 y"(t) の p−1 次導関数、即ち、y(p+1)(t) により決まり、変数 r に関して左辺が連続であるから連続関数である。従って、この式を(4.50)に代入すれば(4.49)が得られる。
. .
[定理 4.14]. .(4.49)の Δk+my0" の係数にある2重積分を ak2で表すと、
____(4.51)
[証明]. .Stirling 数を用いると、
j=0 のとき、k=0 に対する Stirling 数は1であり、その他の k の値に対しては零である。
. .
Table 3.3 の Stirling 数を用いると、(4.51)の値は k=0 から 10 迄に対して次のように求められる。
故に、(4.45)の Δ2y(t) と y"(t) の関係は(4.49)の m の値が零から p−2 迄の式を並べることにより次の行列演算式で表される。
__(4.52)
但し、 . .
m の値が m=p−1 のとき、(4.49)は剰余項のみとなる。
_____(4.53)
平均値の定理を2度用いると、
故に、________
従って、それは行列演算式(4.52)に表されない。
. .[定理 4.15]. .h→0 なら(4.52)の剰余項は hp+1R→0 である。
[証明]. .ベクトル hp+1R を展開した行列の対角要素 hp+1Rm は(4.45)の被積分関数を Newton の補間公式で表した式の t=t0+mh における剰余項に同じである。(4.45)の積分変数 x, z を x=t0+rh 及び z=t0+qh となる r, q に変換すると、
u に m を代入すると、Δ2ym は次のようになる。
___(4.54)
m≤p−2 且つ r≤q+1≤p であるから y(p+1)(ξ r) の係数は定理 4.6 により p 以下である。|y(p+1)(t)|≤M となる値 M が存在するから、
. .従って、(4.52)の行列を D−2 で表すと、2重積分は次のように表される。
_______(4.55)
Δ2Y0 に第 2.6 節の定理 2.12 に述べた Δ−2 を左から掛けると、
___(4.56)
これが(4.44)で表される2重積分に対応する演算式である。故に、著者は演算子 h2Δ−2D−2 を2重積分演算子と名づける。この演算子は二つの初期値 y0, y0' の代わりに y0 及び Δy0 の二つの値が既知であることを必要とする。従って、この演算子により2階の微分方程式を解くためには初期値 y0' は階差 Δy0 に変換されなければならない。 . .
初期値 y0' は微分 Y0' =h−1DΔY0 の行列演算式の第1行で表される。即ち、
_____(4.57)
従って、初期値 y0' 及び(4.55)により得られるベクトル Δ2Y0 の要素を用いてこの式から必要な値 Δy0 は得られる。 . .
行列演算式(4.55)は(4.52)に示すように被積分関数の t0 から tp−2 迄を積分して t0 から tp 迄の結果を得る。故に、演算子 h2D−2 は p−1 次の行列であり、tp−2 から tp 迄の2区間を予測する予測子である。一方、行列演算式(4.56)は被積分関数が y0" から Δpy0" 迄の p+1 要素を持つベクトルで表され得るならその t0 から tp 迄を積分して t0 から tp 迄の結果を得る。行列 (ΔT)2D−2 は、第1行及び2行は全て零の要素を持ち、第3行から p+1 行迄は p+1 次の行列 D−2 の第1行から p−1 行迄と同じである。(4.56)に Δ2 を左から掛けると、
_______(4.58)
演算子 (ΔΔT)2h2D−2 は2重積分の修正子であり、演算子 (ΔΔT)2 は最後の二つの対角要素が零であることを除いて単位行列と同じであるから修正子の最後の2行は全て零である。故に、通常は演算子 (ΔΔT)2 は省略して、2重積分の修正子は((p−1)×(p+1))次の矩形行列で表される。
. .[定理 4.16]. .次の関係は剰余項に無関係に常に成立する。
D−2=D−1×D−1_________(4.59)
[証明]. .y"(t)∈Cp−1[a, b] のとき、0≤m≤p−2 に対する p−1 等間隔区分点 t=t0+mh で関数 y"(t) に一致する p−2 次の関数 z"(t) を考えると、
関数 z"(t) の積分も2重積分も z(p+1)(t)≡0 であるから剰余項を持たない。従って、(4.32)及び(4.45)により、
Δ2y(t0+uh) の剰余項は u=m に対しては(4.54)のそれと同じであるから2番目の式は行列演算式(4.52)に等価である。故に、
_____________[Q.E.D.] . .
従って、h2D−2 による2重積分は hD−1 による2回の積分と等価である。後者の場合、単積分のプログラムを2回使うことができ、初期値 y0' を(4.57)により階差 Δy0 に変換する必要はない。何故なら、階差 Δy0 は ΔY0=hD−1Y0' で表される2回目の積分で初期値 y0' を用いて得られるからである。しかし、それは前者の場合の2倍の計算時間を必要とし、定理 4.16 が D−1の要素の丸め誤差のため正確に成立しないことにより結果の精度が多少失われる場合もあり得る。
4.7 n 重責分演算子 . .
導関数 y' (t) は y(t)−y0 の微分により得られ、2次導関数 y"(t) は y' (t)−y0' の微分により得られる。同様に、n 次導関数は y(n−1)(t)−y0(n−1) の微分により得られる。従って、
___(4.60)
両辺を t0 から t 迄逐次に積分すると、
____(4.61)
これが(4.60)の逆演算であり一意である。n 個の初期値 y0 から y0(n−1) が与えられていれば、関数 y(t) は n 階の微分方程式の解であり、次のように表される。
___(4.62)
これは Taylor 展開と呼ばれている。剰余項は通常は以下に示す n 重積分の平均値の定理を用いて表される。この解はまた初期値を上記の各積分の右辺へ移項して次のように積分で表すこともできる。
___(4.63)
. .[定理 4.17]. .関数が y(t)∈Cp[a, b] なら以下を満たす ξ が存在する。
_____(4.64)
[証明]. .p が1のときは良く知られているように成立する。p=n のとき成立すると仮定すれば、(4.63)を単積分の平均値の定理を用いて積分すると、
仮定及び(4.62)により、
p=n+1 の場合は、平均値 y(n)(ξ) は次のように表される。
これを(4.62)の n 重積分に代入すると、y(n+1)(t) の n+1 重積分で表した解 y(t) に同じである。従って、y(n+1)(t) の n+1 重積分の場合は平均値 y(n+1)(ξ1) が存在し、係数 φ は n/(n+1) である。何故なら、
故に、_________
. .
n 重積分演算子を導くためには、(4.61)は先ず y(t) 及び y(n)(t) の逐次階差を用いた行列演算式で表されなければならない。従って、初期値は y(t) 及び y(n)(t) の両ベクトルの要素ではないから全て消去されねばならない。
. .[定理 4.18]. .(4.61)から全ての初期値を消去すると、
________(4.65)
[証明]. .n=2 のときは定理 4.9 の場合である。n=k のとき成立すると仮定すると、n=k+1 のときは次のようになる。
. .
[定理 4.19]. .整数 m が m≥0 なら Δm+ny(t) は次のようになる。
________(4.66)
[Proof]. .m=0 のときは定理 4.18 の場合である。m=k のとき成立すると仮定すると m=k+1 のときは次のようになる。
. .
[定理 4.20]. .
y(n)(t)∈Cp−n+1[a, b] のとき、それを Newton の剰余項付き補間公式で表すと、t0 から t 迄の n 重積分の逐次階差は次のようになる。但し、0≤m≤p−n である。
____(4.67)
[証明]. .(4.66)の Δm+ny(t) に t0 を代入すると、Δm+ny0 であり、次のように表される。
積分変数 t を t=t0+rh の変数 r に変えると、積分範囲 t0 から t0+h は r の 0 から 1 に変わり、積分範囲 t から t+h は r から r+1 に変わる。
________(4.68)
条件 y(n)(t)∈Cp−n+1[a, b] があるから定理 4.12 の y 及び p の表記をそれぞれ y(n) 及び p−n に替えることにより、被積分関数は次のように表される。
剰余項は導関数 y(n)(t) の p−n+1 次導関数、即ち、y(p+1)(t) により決まり、上式の左辺は連続であるから剰余項は r の連続関数である。従って、上式を(4.68)に代入すれば(4.67)を得る。
. .
[定理 4.21]. .整数 m 及び n が 0≤m<n を満たすとき、
_____(4.69)
[証明]. .1). .m=0 のとき式[1]は成立する。何故なら、
2). .m=1 のときも成立する。何故なら、
3). .m=k のとき成立すると仮定すると、m=k+1 の場合は、
故に、式[1]は常に成立する。式[2]の左辺を sn と置くと、
. .
[定理 4.22]. .(4.67)の Δk+my0(n) の係数を akn と表すと、
_____(4.70)
[証明]. .二項係数を Stirling 数 αj(k) を用いて表すと、
______(4.71)
任意の整数 j≥0 に対して、
故に、r j の r から r+1 迄の n 重積分が
_____(4.72)
と表されると仮定すると、n+1 重積分は次のようになる。
故に、(4.72)は整数 n≥1 に対して常に成立する。従って、(4.71)を n 重積分して最外側の積分の積分範囲の r に零を代入すると証明は完了する。但し、整数 j は Stirling 数により k=0 の場合にのみ零に成ることができ、(4.72)の総和は r=0 の場合には定理 4.21 により n! になるから a0n は1になる。
. .
定理 4.20 及び 4.22 により、導関数 y(n)(t) のベクトルと Δny(t) のベクトルの関係は(4.67)の 0≤m≤p−n の各式を並べて次の行列演算式で表すことができる。
__(4.73)
但し、. .. .
左辺のベクトルの要素 Δp+1y0 は(4.67)の総和が m=p−n+1 のときは零になるから次のように剰余項のみで表される。
______(4.74)
これはベクトル Y0(n) の要素に無関係であるから行列演算式には現れない。定理 4.11 の t=t0 の場合により、右辺の n 重積分が y(p+1)(ξ) となるような値 ξ が存在する。それは n 重積分の平均値の定理によっても次のように示される。
従って、関数 y(t) 及び y(n)(t) がベクトルで表されるとき Δp+1y0 は消える。
. .[定理 4.23]. .両関数 y(t) 及び g(t) が連続で、t0 から t の区間で符号を変えないなら、次の関係を満たす値 ξ が存在する。
____(4.75)
[証明]. .g(t)>0 及び L≤y(t)≤G と仮定すると、
L=G の場合は(4.75)は明らかに成立する。L≠G の場合は、p=1 なら、
故に、
中間値の定理により次のような ξ が存在する。
. .
(4.75)が p=n のとき成立すると仮定すると、p=n+1 のときは、
故に、
中間値の定理により次を満たす ξ1 が存在する。
g(t)<0 が負の場合も同様にして証明される。______[Q.E.D.] . .
剰余項 ΔmR0 の一番内側の積分を f(r) で表すと、定理 4.17 により次式を満たす u が存在する。
関数 f(u) は u<j<u+1 を満たすある整数 j において被積分関数の二項係数の符号を変える。定理 4.23 により、二つの値 ξ1, ξ2 が存在して次式が成立するする。
u<u1<j, j<u2<u+1 を満たす二つの値 u1, u2 が存在して次の関係が成立する。
従って、hp+1|ΔmR0|→0 が成立し、定理 1.7 により剰余項は、
. .
故に、(4.73)の行列を D−n で表すと、この行列演算式は次のように表される。
______(4.76)
これは(4.65)で表される n 重積分の演算子法表記である。ΔnY0 に左より第 2.6 の定理 2.12 で述べた Δ−n を掛けると、
_____(4.77)
これは(4.62)で表された n 重積分に対応する演算子法表記である。故に、著者は hnΔ−nD−n を n 重積分演算子と呼ぶ。この演算子は y0 から y0(n−1) 迄の n 個の初期値の代りに y0 から Δn−1y0 迄の n 個の値が既知であることを必要とする。従って、n 階の微分方程式をこの演算子で解くためには、初期値 y0' から y0(n−1) は Δy0 から Δn−1y0 迄の逐次階差に変換されなければならない。 . .
この変換は著者がこの演算子法を発見した切っ掛けであった。この変換はこの演算子法に類似の行列演算式で表されるが、その行列はこの演算子法の演算子ではない。何故なら、その被演算子は要素が逐次階差ではなく、初期値点における逐次微分値であるベクトルだからである。この行列は通常の数値計算をこの演算子法に結び付ける演算子である。その詳細は第四章で述べる。 . .
(4.76)の演算子 hnD−n は行列 D−n が p−n+1 次であるから t0 から tp−n 迄の被演算子を用いて t0 から tp 迄の n 重積分を得る。故に、これは tp−n から tp 迄の n 重積分を予測する予測子である。(4.77)の行列 D−n が p+1 次のとき、(4.77)に左から Δn を掛けると、
________(4.78)
この演算子は t0 から tp 迄の被演算子を用いて t0 から tp 迄の n 重積分を得るから n 重積分の修正子である。演算子 (ΔΔT)n は最後の n 個の対角要素が零であることを除いて単位行列に同じである。故に、通常はこの演算子を省略し、n 重積分の修正子は ((p−n+1)×(p+1)) 次の矩形行列で表す。
. .[定理 4.24]. .次の関係は剰余項の有無にかかわらず常に成立する。
_______(4.79)
[証明]. .y(n)(t)∈Cp−n+1[a, b] のとき、関数 y(n)(t) と 0≤m≤p−n に対する t=t0+mh の p−n+1 点で等しい p−n 次関数 z(n)(t) を考えると、
z(p+1)(t)≡0 であるから z(n)(t) の逐次積分は剰余項を持たない。故に、定理 4.18 により z' (t) の n−1 次導関数のn−1 重積分及び y(n)(t) の n 重積分は次のようになる。
逐次階差を計算すると、定理 4.19 及び 4.20 により次の行列演算式で表される。
2番目の式は剰余項も含めて(4.73)に等しい。故に、
同様に、Δz(n−1)(t0+rh) 及び Δny(t0+rh) を使えば、
___________________[Q.E.D.] . .
従って、n 重積分は単積分プログラムを n 回使って行っても良い。その場合は y0' から y0(n−1) 迄の初期値を Δy0 から Δn−1y0 迄の逐次階差に変換する必要はない。何故なら、逐次積分は次のようになるからである。
_____(4.80)
従って、その方法は簡単であり、便利である。しかし、計算時間は n 重積分演算子を使用する場合のおよそ n 倍であり、D−1 の n 乗迄の数値計算の丸め誤差により結果の精度が悪化する場合もあり得る。
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