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原告は、第38期通常総会における細則の変更決議
(乙6)
が建物の区分所有等に関する法律
(以下「建物区分所有法」という。)
第31条1項後段の「規約の変更」に該当し、本件細則変更によって一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすため、その承諾が必要であると主張し、本件細則変更において区分所有者の承諾を得なかったことは、同法第31条1項後段に反すると述べる。
しかし、本件細則変更は「規約の変更」には該当しないため、同法31条1項後段の直接適用はない。したがって、原告の主張は失当である。
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建物区分所有法31条1項後段の類推適用について
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(1)
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建物区分所有法31条1項後段は、「規約の変更」によることなく、規約の定めに基づいた集会決議によってマンション駐車場の使用料が変更された場合に類推適用される
(乙16の1、最判平成10年10月30日民集52卷7号1604頁)。
そして、同項の「特別の影響を及ぼすとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性と、これによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう
(前記判例)。
また、従来無償とされてきた専用使用権を有償化し、専用使用権者に使用料を支払わせることは、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、かつ、設定された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべきであり、そのような有償化決議は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないとされる(乙16の2、最判平成10年11月20日最高裁判所裁判集民事190号291頁)。
そこで、以下、本件細則変更
(乙6、乙7)
による駐車場一部有料化は、必要性及び合理性が認められ、かつ、社会通念上相当な額であり、同項後段の「特別の影響」を及ぼさないため、同項後段が類推適用されないことを述べる。
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(2)
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駐車場ー部有料化の必要性があること
本件マンションは、区分所有者が定住する居住者と行楽時に利用するリゾート利用者の混在するリゾートマンションである。
区分所有者の総数は376名であるのに対して、従前、駐車場は105台分しか確保されていなかった。そのため、行楽時にはリゾート利用者が多数
利用し、マンション敷地内にある駐車場の駐車区画だけでは足りなくなることが多々あり、駐車区画外に駐車させるなどして間に合わせていた。
しかし、従前通りに駐車区画を固定せず全ての区分所有者が無料で自由に使用できる状態を継続すると、今後、行楽時に居住者やリゾート利用者が駐
車場を使用できなくなるおそれがあった。
そこで、第38期通常総会において、居住者とリゾート利用者がいずれも駐車場を使用できるようにするために、居住者について駐車料金を一律月額2000円とする提案を行い、居住者から駐車料金を徴収し、各世帯ー戸につき一台のみを駐車可能とするとした
(乙6)。
さらに、第39期臨時総会では、居住者について駐車料金を徴収する反面駐車区画を確保させ、リゾート利用者からは駐車料金を領収しない反面駐車区画を固定させないとしたのである
(乙7)。
また、居住者から集めた駐車料金は、本件マンションから離れた新たな駐車場の賃借料にあてられ、以前に比べ駐車場は26台分増加した
(乙12の2)。
その結果、現在、駐車場は合計129台分あり、そのうち有料駐車場は78台分となった
(乙12の1、2)。
このように、今回の駐車場の一部有料化は、不足している駐車区画を増設するとともに、居住者の駐車区画を確保しつつリゾート利用者も行楽時に利用できるようにするために必要性のある変更であった。
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(3)
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駐車場の一部有料化が合理性を有していること
本件一部有料化は、使用頻度の高い居住者は駐車場の利用による受益が多いため有料とし、使用頻度の低いリゾート利用者は無料とすることで利用者全体の公平を図っている。しかも、居住者については駐車区画を確保させるため駐車場所を固定し、さらなる公平を図っている。
また、(4)で述べるとおり、駐車料金の月額2000円という金額は近隣の駐車料金と比較して妥当な金額であり、日々利用する居住者と行楽時のみ利用するリゾート利用者との間の公平が図られた金額である。
さらに、徴収された駐車料金は、駐車場の維持や新たな有料駐車場を確保するための費用に充てられており、駐車料金の使途は駐車場不足解消という目的に合致している。
そして、平成28年4月29日から同年5月8日までのゴールデンウィーク期間中、駐車場利用者は、全員駐車区画に駐車することができた。そのうち、リゾート利用者については、マンション敷地内にある従前の駐車場だけでは足りず、今回増設したマンション敷地外の駐車場を利用することで、駐車が可能となった。
このように、本件一部有料化によって、今年のゴールデンウィーク中、居住者及びリゾート利用者双方の要望を最大限満足させられたのである。
したがって、本件一部有料化は、合理性が認められる。
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(4)
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駐車料金が社会的通念上相当であること
駐車料金について、駐車場利用細則第11条では、理事会で定めることとなっているが、現在は月額2000円と定められている。これは、近隣のマンションや有料駐車場の駐車料金が月額3000円から5000円であることを考慮して決められたものである
(乙14の1ないし5)。そして、年間2万4000円という金額は、居住者とリゾート利用者の間のバランスを失するものでもない。
したがって、月額2000円という駐車料金は、社会通念上相当な金額である。
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(5)
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以上より、本件ー部有料化は、必要性、合理性を有するものであり、かつ駐車料金も社会通念上相当な金額である。そのため、本件細則の改正は「特別の影響」を及ぼすものではなく、建物区分所有法31条1項後段は類推適用されない。
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1
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原告の第2準備書面は、ほぼ訴状と同様の主張内容なので、原告の主張に対して概ね否認ないし争う。被告の主張は、被告第1準備書面の通りである。
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本件細則変更が建物区分所有法第19条に違反しないこと
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(1)
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原告第2準備書面において、原告は、本件細則変更が建物区分所有法19条違反であると述べているので(第2準備書面第1第4項(2)及び(5)、同第5項
(1)
及び
(2)、同第7項、同第9項
(2)
(6) 及び
(8)、同第10項
(1)、同第2第1項
(6)、同第2項
(1)
及び
(2)、同第3第1項
(2))、同条について述べる。
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(2)
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同条は、共用部分の費用負担や利益収取をどのように定めるかは区分所有者の内部自治に委ね得る性質の事項であるから、規約に別段の定めがあればそれに従い、定めがない場合には共用部分共有持分に応じて負担及び収取をすると定めたものである。
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(3)
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春日居ライフビアマンション管理規約
(以下「本件規約」という。)
は、駐車場等の使用については、別に定める使用細則の定めに委ねている
(同規約15条)。したがって、共用部分の費用負担や利益収取を区分所有者間でどのように行うかは、使用細則の制定・変更によって自由に行われるものであり、持分割合に拘束されない。 よって、本件規約第47条2項、同第48条4号に基づき、総会の通常決議により駐車場の一部有料化が定められた現在の駐車場利用細則は、建物区分所有法第19条に違反しない。
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(4)
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なお、共有部分の持分に応じた負担収取をするという点は、任意規定であると解され、規約に定めがない場合は、その内容が著しく不公正、不公平でない限り共有持分に応じて定められていない負担割合に関する集会決議は有効であるとされている(旧建物区分所有法14条につき、東京高等裁判所判決昭和62年5月27日束京高等裁判所(民事)判決時報38卷4~6号33頁)。
したがって、もし本件規約が、駐車料金の負担及び収取について規約で定められていない場合に当たるとしても、当該一部有料化は、前述の通り必要性、合理性があり、駐車料金も社会通念上相当な金額であるため、その内容は著しく不公正、不公平ではない。
よって、本件細則変更は、有効な決議である。
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第3第2項について、被告代表者理事長の解任は、本件利用細則の有効性とは無関係な主張である。しかし、原告が何ら根拠なく被告代表者理事長を「不正な企み」を行い「自らの欲を被告の意志と騙って表している」という主張をすることは看過し難い。被告代表者理事長、理事及び被告の構成員である区分所有権者は、駐車場が不足する状況を改善すべく真摯な検討を行った上で、駐車場の一部有料化の決定をしたのである。
したがって、原告による上記主張は、一方的な決めつけであり不当なものである。
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